昨日の天気はどこへやら、
今日の空は暗い雲ばかり立ち込める。
あめが、ふる。ぽつりと小さな雫は温い。
多少の遅延を出しながらも今日も役割を全うしていた。湿気が漂う列車内では一層体がじっとりと重い。
この車内の湿気をなんとかできないものか、…いやさすがに無理か、と考えながら大宮で降りて休憩所に向かう道中、見慣れた顔に出くわした。
「ああ高崎、おつかれ」「ん。おう」
宇都宮が手に買ったばかりと思しき水のペットボトルを持っていたので手招きしてパスさせる。
湿気と汗で相当参ってるみたいだね、と言われて、けれど自分ではそんなつもりはなかったので、なんで、と返せば
「ここ」
近付いてきた宇都宮に、耳から首にかけてをなぞられる。「汗ばんでる。」
ぞわりと震えたのは汗のせいだ。
「さわんな、べたべたする」
「…ふうん。そう」
こういうときの気のない返事は、大抵面白がっているときだ。(その証拠に、あいつは俺を触る手をとめない)(背中をむければ首に絡まりついて来る)
「……べたべたしたいなあ」
「…………」
「べたべたにしたいよ、たかさき」
「…意味、違ってるだろ、それは」
「そう?」
だってべたべたにしたくなっちゃったんだ、と少し湿った手が頬に触れて、それだけでぞわりと体が震える。指先はなぞるように頬を撫でて、ゆっくりと唇の先にたどり着く。
「うつ」
のみや、と動かせば、触れていた指が離れる。
まるで吸い付いていたようなその感触が

離れていくのが


「………なんて顔してるの、高崎」


俺の顔を覗いてくつりと笑う宇都宮は心底楽しげだ。
だから俺は仕返しに宇都宮のそこに噛み付くようにしてやったのだ。


それに隠した本当の意味は、気づかれたって構わない。





サマーデイ・イン・ザ・レイン









20090726