「うわーーー…刺さるもんなんだな。俺、刺さったことない」
「たまになるよ。きみの髪を触ってるとね。」
高崎が顔をしかめた。
咎めたつもりはなかったのだけど、そう捉えられてしまったらしい。
いま僕の左の掌には生えてきたように数本の髪の毛がぴよんと刺さっている。風呂上がりの高崎の硬い髪を乾かしてやったり、髪を切ったあとに髪全体をかき混ぜてやったりなんかすると、ごく稀にこんなことが起こるのだ。ちなみに今回は前者のほう。
じっとりとこちらを見る高崎が「じゃあもう触るな」と言い出しそうだったから(触るなと言われたときのことは深く考えないようにした)、僕は笑ってみせた。
「痛くないから大丈夫だよ」
「うそつけ。ぜってーそれ、痛いだろ」
あ、疑ってる。僕の手首を掴んで、睨むように掌を見ている。まあ確かにまったく痛くないと言ったら間違いだけど、このくらい別に痛がるほどじゃない。
それに。
「痛くてもいいよ。だって高崎のだし。」
そうなのだ。ほんとのところ、いいのだ高崎になら何されたって何だって。
見やれば高崎は変な顔をしていた。それはとても間抜けで、とてもかわいいと思った。
だから僕はにっこり笑って、何か言い出しそうなその口を塞いでやったのだ。





好きだからしかたがない









20090721